アマチュア無線は素敵だ

noiseがあふれるそんな日は読書で時間を忘れよう

アンテナと無線機

 あの頃は、垂直に立てた竹竿に滑車を使って張ったダイポールアンテナが主流だった。何度も上げ下ろししてカット&トライを神経質に繰り返して調整した。もう一度だけ、もう一度だけとチャレンジしても周りの環境が悪かったのか、地上高が足りなかったのか思うようなSWRは得られなかったと思う。どのあたりで妥協したのかは覚えていないが、「社会に出たらいつの日か金に物を言わせてタワーを建ててやる」と夢見ていた当時が懐かしい。

 アマチュア無線は「趣味の大様」いながらにして世界の仲間たちと語り合えると喧伝されていた。今の様に個人が自由に使えるパソコンの登場は先のことで、携帯電話もインターネットもない時代だ。だからそれは高級な趣味に違いない。

 私には無線機を自作するような知識もなかったので、八重洲のFT-200Sを父親に買ってもらった。今思えば父親も借家住まいからやっと念願のマイホームを建ててまだ日も浅く、多くの借金を抱えて子供たちにもお金のかかる時期だったはずだ。そんな苦しいときに高価な無線機を買ってくれたことは今でも不思議でならない。大戦当時志願兵として参戦した父親は無線兵だったと言っていたから、活用方法こそ違うが同じ無線に興味を持った息子が自慢でありうれしかったのかもしれない。いつか話のタネに聞いておこうと思っていたが聞かずじまいで2年ほど前に他界してしまい、真相はわからず今では知りようもない。

 今夜は若かりし頃タワー建設を夢見た自分自身の情熱も父親の息子へのひそかな思いもわすれ、ゆっくりとFT8の画面を見続けることで良しとしよう。 

捏造の科学者 STAP細胞事件 (文春文庫)

捏造の科学者 STAP細胞事件 (文春文庫)

  • 作者: 須田桃子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/10/06
  • メディア: 文庫
 

 前半は、普段耳にすることのない単語が随所に出てきて文脈を理解することができず、ページをめくる手が進まなかった。あの「世紀の事件」の真相を知りたい一心で読み続けた。徹底した取材と豊富な人脈からのコメントや情報が、最後まで読書欲を萎えさせなかった。特に第十章「軽視された過去の指摘」では、あの清純で正直に見えた若き科学者小保方春子氏が全く違って見えてくる。「STAP細胞はあります」とカメラをまっすぐ見据え、凛と答えた小保方氏はいったい何者なのか?新たな人間的興味が湧いてくる。